研究指導について

研究指導について

研究指導の理念

  • 研究活動はサブスぺ研修者の義務
  • 研究活動は平日の日中に行う
  • 研究内容は自分で決める
  • 研究を通じて問題解決能力を養う

臨床医にとって研究活動は義務

臨床医は、普通に診療を行っていれば、毎日のように解決すべき壁が出現します。つまり臨床医にとって、問題解決能力を高めることは臨床をすること「そのもの」といっても過言ではありません。しかし、医療の現場は数々のローカルルールや上下関係にがんじがらめにされているのも事実で、このような能力を育む環境としては不向きと考えられています。臨床と研究を両立させることの難しさはこのような医療現場の体質にもあるでしょう。そのような環境で、はたして臨床医はどのようにして、自由で豊かな発想を持ち、科学的真実を追究していけば良いのでしょうか。

 当講座では、臨床医の視点で行なう臨床研究をメインに研究指導を行なっています。研究のための研究、学位取得のための割り切った研究ではなく、「専門職として日々の業務から発生した学術的な興味や疑問をどのように研究し、解決に導くか」ということを重視しています。そのため、研究テーマを自分自身で創造することから取りかかります。たくさんの乗り越える壁がありますが、我々と一緒に研究活動を楽しむ医療者の輪はどんどんと広がりつつあり、現在では職種・診療科をも超えたつながりで研究活動が進行しています。最初は、「自分には研究なんて・・・」と尻込みしていた若手も、いまでは「ただ日々の臨床をさばいているだけではダメだ」と言うようになりました。最初は一定の学習が必要ですが、診療業務と関連の深いテーマを軸に学んでいくことで思っていたよりずっと楽しく学ぶことが出来ることでしょう。

研究内容は自分で決める

当科に所属する臨床医は、自身の診療から生じた疑問(臨床疑問)を解決するために、さまざまな研究を行なっています。 研究テーマは、上司から与えられたものを実施するだけではなく、自分の診療に役立つテーマを自分自身で探して取り組むようにしています。これまで、上司に言われて学会発表をして、その流れで臨床論文を書き始めたけれど、結局挫折してしまった、という経験を持つ方は多いのではないでしょうか?他人から与えらえたテーマは、他人から手取り足取り指導を受けられないと完遂できないものです。一方で、自分が興味を持ったテーマは、自分自身の問題であり、何としても解決したいと思うものです。むしろ、何としても解決するのだという強い意思が無ければ、最初の英文論文をアクセプトさせるという大きなハードルを越えることはできないものです。

研究を立案する創造力とは、単に突飛なことを思いつく変わった頭脳の持ち主から生じるのではなく、日々の診療を一生懸命やった結果として発生します。そして、既存研究を検索する能力、研究の流れを読み取る論文読解力・速読力など総合的な力が備わって初めて「あなたの臨床研究」が誕生するのです。熱意ある上司に決められたテーマで、手取り足取り指導されて書いた英文論文がアクセプトされたとしても、次に2本目の論文を書く時には、また同じように面倒を見てもらわなければ書けないという状況に陥ってしまいます。自分の疑問から研究を開始することこそが、今後のキャリアを決定づける重要な要素なのです。

研究は平日の日中に行う

ただ、そうはいっても・・・という声が聞こえてきます。たしかに、若手の臨床医が独力で出来る研究には限りがあります。臨床業務の空き時間には、技術的なトレーニングもしたいでしょう。研究のイロハを学ぶ時間を確保するだけでも大変なのに、データ収集やPCへの入力作業に多大な時間を取られてしまうのも問題です。研究を成功させるためには、既存研究を十分に精査し、研究計画を十分に練り、解析方法を学ぶ時間が必要ですが、「そんな余裕は無い」というのも現実でしょう。

そこで当科では、サブスぺ研修中の医師は平日1日は必ずベッドフリーとし、研究に専念できる時間を確保することにしています。その間は、病棟業務から一切離れて研究活動を行います。当科では、研究手法の基礎を学ぶための動画教材や大学院が提供するE-learningなどを利用する学習環境を整えてきました。そして、実際のデータ収集やデータベースの構築は、なるべく専門家に依頼し、臨床医が自分自身で行わないことを原則としています。研究活動が臨床のトレーニングの時間を圧迫しないように配慮しています。ただし、いざ研究をやってみるとわかると思いますが、週1日の研究時間ではとても足りません。結局は自分のキャリアデザインが何なのかという問題に行き当たることでしょう。自分の時間を何にどう使うか、自分の将来像をどこに設定するかということを考えて、実施可能な研究の大きさを設計する必要も出てきます。研究活動を通じて、自分を見つめなおすという意味でも、サブスぺ研修の時期を有意義に過ごしてほしいと願っています。

競争的資金を獲得

当科で臨床研究を実施する者は、文科省科研費などの競争的研究費を申請します。研究費を獲得できる医師になることが、今後アカデミアで活躍する必要条件でもあります。審査に通るための研究案、計画書の書き方を徹底的に添削指導しています。実際、当科で研究活動を行っている若手の多くは科研費を取得しています。

公衆衛生大学院への留学

これまで当科の助手が7名、公衆衛生大学院に国内留学をしています。1年間は完全に臨床業務から離れて、幅広い公衆衛生の知識を学びます。病院単位で行なう小規模な臨床研究から、大規模臨床試験についても深く学ぶ機会を得ることができます。2年間所属することで、Master of Public Health(MPH)という修士学位を取得することも可能です。

臨床のトレーニングを中断して、大学院で授業を受ける日々に不安を感じる人もいますが、1年程度のブランクでは手技の劣化はほとんどありません。むしろ、多角的な視点で物事を深く考える時間を得ることができ、再度臨床に返ってきたときには臨床医として一段も二段も成長してくれています。そして、その後のトレーニングにもメリハリが生まれて、結果的に臨床の技能も伸びたと感じる者も多いです。長く助走をとったほうが、より遠くに飛べるということかもしれません。長い医師人生、長期的に見れば遠回りに思えることも、後から振り返れば必要な時間だったと感じることでしょう。さまざまな選択肢を示すことも、指導者の役割だと考えています。

留学者の体験記はこち